甲状腺は首の前側下方にあり、重さ15g程度の、蝶のような形をした臓器です。血中のヨード(ヨウ素)を原料として体に不可欠な甲状腺ホルモンを作り、血液中に分泌しています。甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を盛んにします。体内の脂肪や糖分を燃やしてエネルギーを作り出し、また、体の発育にも関わり、胎児や小児の成長には欠かせません。
甲状腺ホルモンが多すぎる
血中の甲状腺ホルモンが多すぎると、動悸、息切れ、発汗過多、暑がり、食欲亢進、体重減少、手の震え、下痢、イライラ、落ち着きのなさなどの症状が現れます。心臓が頻脈に耐えられなくなると、心不全を起こしてくることもあります。代表的な病気がバセドウ病とも呼ばれる甲状腺機能亢進症です。比較的若い女性によく見られ、出産適齢期の女性に多い病気です。血中の甲状腺ホルモン値が高いことと、機能亢進の原因物質であるTSHレセプター抗体(TRAb)陽性などから診断します。バセドウ病の治療としては、薬剤療法、アイソトープ療法、手術療法があります。日本では、通常はまず薬剤療法を行います。メルカゾールまたはチウラジール(プロパジール)を一日3錠程度から飲んでいただき、少しずつ減量していきます。中止できるまでに少なくとも数年はかかり、副作用が現れたり、効果が不十分な場合には、アイソトープ療法等、他の治療法に変更することもあります。
その他に血中の甲状腺ホルモンが高くなる病気には、甲状腺細胞が一時的に壊されて甲状腺内に蓄えられている甲状腺ホルモンが血中に漏れ出てくる無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎、腫瘍が甲状腺ホルモンを過剰に作ってしまうプランマー病もあります。
甲状腺ホルモンが不足する
甲状腺ホルモンが不足するのが甲状腺機能低下症であり、むくみ、寒がり、皮膚の乾燥、便秘、集中力の低下、眠気、倦怠感、体重増加、脱毛などの症状がでることがあります。高齢者では、物忘れが進行し、認知症と間違われることもあります。その原因として代表的な病気が橋本病とも呼ばれる慢性甲状腺炎です。30~40歳台の女性に多く、甲状腺は全体に硬く腫れてきます。やや硬い甲状腺腫を触れ、血中に原因物質である甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体:Tg抗体および抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体:TPO抗体)のいずれか片方でも陽性となれば診断されます。なお、機能低下となるのは、橋本病の一部の方のみです。機能低下症の治療としては、甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を飲んでいただいて不足を補っていくことになります。ホルモン剤服用にて甲状腺機能が正常に維持されれば、日常生活は健常な方と変わりません。
しこり(腫瘍)
甲状腺にも他の臓器と同様にしこり(腫瘍)ができることがあります。甲状腺のしこりにも良性、悪性があります。診断には、採血および甲状腺エコ-検査を行い、腫瘍の状態を調べます。エコー検査では、腫瘍の大きさ、数、内部の状態や血流の有無、周囲のリンパ節の腫れなどを検査します。状況に応じて、エコーで確認しながら注射針を腫瘍内に刺し入れ、腫瘍細胞を吸引し、顕微鏡で観察することによって良性悪性を診断するエコー下穿刺吸引細胞診を行うこともあります。悪性腫瘍の多くは乳頭癌で比較的診断しやすく、増殖もゆっくりですが、一部には診断が困難な濾胞癌や、悪性度の高い未分化癌等もあり、注意が必要です。悪性の場合は手術にて切除することが多いですが、小さな腫瘍は経過観察することもあります。